水曜日, 8月 01, 2007

電脳コイル12話:ヒゲイリーガル文明の興亡

電脳コイル12話があんまりにも面白かったので、ちょっと遊んでみる。


ヒゲ型イリーガル文明の興亡に関する一考察

彼らはどこから来て、どのように栄え、そして去っていったのか。
遺されている数少ない物証から考察してみよう。

1.彼らはどこから来たのか

 正確な場所はわからない。しかし、彼らの群生場所が初めて観測されたのがダイチの顔面、特に口周辺であること、また、その直前の2日間に、ダイチがイリーガルを求めて、旧電脳空間を広範囲に探索していたことから、このいずれかの空間―おそらく神社・寺院など―にその起源があることはほぼ間違いない。

 しかし、旧空間からの偶然の感染というだけでは、今回のような未曾有宇のイリーガルの大発生は考え難い。ダイチが短期間に複数の旧電脳空間を探索したこと、これが重要なポイントと考えられる。

 旧電脳空間は、大黒市のあちこちに存在しており、それぞれは相互に関連はないので、ちょうどガラパゴスのような固有な閉鎖環境となっている。たぶん、それぞれに何らかのイリーガルが存在しているのだろう。これまで今回のようなイリーガルの感染拡大が発生しなかったのは、仮に誰かがこれら旧空間のイリーガルに接触感染したとしても、旧バージョンのイリーガルは現行の電脳空間は長期間生存できなかったためと考えられる。

 しかし、ダイチが短期間に複数の旧空間を探索したことにより、ダイチに感染した旧バージョンのイリーガルは、旧空間と現行空間の環境に交互に晒され、その結果、彼らは両空間境での生存能力を急速に強化していったのではないだろうか。

 ある意味、ダイチこそ彼らの創造主であるといえよう。


2.何故彼らは栄えたのか

 文明が発展する条件、それは余剰資源である。古代文明では食料生産力、現代ではエネルギー確保が相当する。
 では、ヒゲ型イリーガルにとっての余剰資源とは何か。

  電脳空間における高度な情報処理能力である。

 もともと彼らが生存していた空間は旧バージョンであり、その処理能力は限定されていたものである。電脳空間は電脳ペットが存在できるように構成されているものであるから、基本的に人工生命が安定的に存在することが可能な情報空間となっている。ペットのような大型の生命だけではなく微小な形態の生命、ウィルスや菌といったものが自然発生する余地は充分にあるだろう。

 旧空間で小型で効率的に生存していた原始的なイリーガルにとって現行空間は極めて豊穣な空間であろう。ダイチのおかげで旧空間内生息しつつかつ現行空間の余剰資源にアクセスする能力を持ったイリーガルが、その資源を生存以上のものに向かわせるのは極めて自然な発展プロセスであろう。

 またヒゲ型という小型生命体であることも文明発展に優位に働いたと考えられる。
 イリーガルの生息域拡大の前例として11話の巨大魚型イリーガルがあるが、この場合は現行空間の資源をその生存のみに割り振り、巨大化という方向へしか発展させることはなかった。これはつまり1個体の生存に必要な資源(情報処理能力)が拡大していったため、余剰資源が発生せず、結局文明発展に向かわなかったといえる。

 電脳空間の情報処理能力とは、空間内においては物理現象そのものである。人間が物理法則を試行錯誤で組み立てていったように、ヒゲイリーガルたちは電脳空間の情報処理、おそらくはAPIを試行錯誤で取得していったのであろう。そしてその組み合わせによって新しい技術や電脳空間の利用の仕方を学んでいったのだろう。ちょうど錬金術から物理化学に発展していったように。


3.何故、口の周りに群生したのか

 ひとつの理由は、メガ婆の解析が示すように、旧バージョンからの空間が階層化して存在しているため。もうひとつは、口の周りには資源が集中し豊富であるためだ。

 眼鏡を顔面に装着するから顔周辺空間に情報処理機能が集中しているのは自明である。特に口周辺は音声認識・表情構成など認識処理に直結するエリアであるため特に情報処理機能が強化されているはずである。これはまた機能向上のため頻繁にバージョンアップされていることも推定され、上記の2つの条件が成立したのであろう。

 この推論により、メガ婆の髭が特にふさふさだった理由も想像に難くない。当然、猛烈に複雑なバージョンアップと電脳空間の機能アップをしているはずだからである。

 また、初期の感染ルートとして指先があったというのも同様の理由であろう。指は仮想キーボードの入力インターフェースであり、処理負荷が非常に高い部分である。


4.彼らにとって宇宙とは、そして神とは

 彼らにとっての宇宙とは現行電脳空間であり、そのままでは彼らが生存できない空間である。宇宙空間への進出が可能となったということは、イリーガルが自ら開拓した技術によって、新しいバージョンの空間への適応を可能としたということである。
11話の巨大魚は、これとは異なり、進化による適応であり、その意義は全く異なるものだ。

 ヒゲイリーガルの場合を例えて言えば、MACの古いバージョン(KT7あたり)のアプリが、自分でAPIを拡張してVMを背負ってVistaで平気な顔して動いているようなものだ。

 そして彼らにとっての神、ヤサコ様のお告げは技術発展の大きな牽引力となったと思われる。
 神のお告げの原理を探る行為はそのまま電脳空間のAPI解析に直結するし、神という存在が自己の存在意義という内的思索の要因ともなる。もちろん哲学者が登場するのも必然だ。
 
 文明末期において、彼らはに宇宙―電脳空間―をどこまで正しく把握できていたのだろうか。もしかすると神であるヤサコ様を通して人間世界の存在を把握するにいたっていたかもしれない


5.そして彼らはどこに去ったのか

 最終戦争により自らの文明を失った彼らは、ヤサコ様により約束の地を与えられた。
 しかし、彼らは文明の再興を試みることなく去っていった。
 彼らは何を求めていったのであろうか。

 高度な哲学的思考力を備え、また科学技術の粋を極めた末にそれを失った。
そんな彼らが追い求めたものは自己の存在、そして自己の起源であろう。

自己の存在形態に対して、あまりにもアンバランスに余剰資源がある電脳空間。それこそが彼らの文明を導きそして滅ぼした元凶である。彼らはそれに気がついたはずだ。

 「我々はどこから来たのか。そしてどこにいるべきなのか。」

彼らは去っていったのだ。彼らの起源である空間。

いわば彼らのうまれ故郷である旧電脳空間の地球へ。

そう、地球(テラ)へ。・・・・・・・・・・・・・・・ 寺へ

・・・・・・・・おあとがよろしいようで


#たぶん、爺さんが墓参りに行ったときにでも、起源の旧電脳空間を見つけたんだろう

#このオチを使えるのは30年ぶりの今しかない